〜序〜

 ここは、あなたの住むこの世界ではない世界。異なる地形、異なる歴史。そこにも海と大陸があり、人が住み、生活を営んでいる。
 あなたの知るあなたの世界と、なにもかもすべてが違うというわけではなく、けれどやはり同じではない。
 この世界にはエレキテルは存在せず、機械を動かす力はスチームのみ。
 そしてこれからあなたが分身をもって訪れる地には、その蒸気文明も未だ開花はしていない。
 文明花開く大陸の中央より、大河によって隔絶してきたこの国では――すべてはこれから。

 変化なき、戦いなき太平の世を過ぎて、この国を治めてきた侍たちは力を弱めた。
 気がつけば諸外国は蒸気の力を得て、二歩も三歩も先へと向かっている。
 侍たちの神降ろす力を取り戻し、蒸気の力をも手に入れて、国と文明を開かねばならぬ。
 それは危機感であり、使命感であり、改革の意思。
 誰よりも早くそれを抱えて走り出したのは、八海城の城主であった。

 この物語の舞台はロウレアス大陸と呼ばれる地の南端にある国、楼国。諸外国からはレイトエルメシアと呼ばれる国。
 その西北国境近くに、八海城は在る。八海港とその港町を城下として抱え、布達岳を北に背にし、南と東には広大な湿地帯と密林が広がっている。

 その八海城そのものが、城主八ヶ門正賀長之助(やつがかど まさよしちょうのすけ)の開いた侍学府である。

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