カプリチオ

■ろくでなし狂想曲■

 冬疾風の月の終わり。
 アルメイス中央駅には冬のさなかでも、雪を溶かし氷を割って、蒸気機関車が走りこんで来る。この日も、帝都からの列車が到着していた。
 そこから降り立った人影のうちの一つが一部の者にとって大層傍迷惑な冬疾風となることは、まだ誰も知らなかった。

●恋の輪舞
 運命の人は一人だけ。いくつもの恋を渡るのは、そのただ一人を探しているから。
 いくつもの恋、幾人もの女の子。きっとその中に自分だけの大切な女性がいるから。
 ただ一人を見つけたなら、もうその人しか見えない。
 けれど、その一人に出会うまでは。
 いくつもの恋を巡る……

「ジークのお父さんって、ジークに似てたの?」
「似てた……かな? 俺は大して似てると思ったことはないけど、似てるって言う人はいたな」
 昼に一緒に食堂で昼食を取ったあと、ジークとカレンは混雑した食堂を出た。
 昼休みが終わるまで、あともう少しある。その間はぶらぶらと構内でも散歩しようと、二人は中庭に出ていった。
 二人とも高等部は終えて講義も研究室も別々、講義が終わるとカレンはアルバイトなので、このあと夕方まではまたバラバラだ。間の休み時間や講義のない時間は、大体カレンが捕まらない。そういう時間はランカークの護衛やらお使いやらなんやらで、こっそり走り回っているからだ。じゃあ昼休みもじゃないのか……と言えば、昼休みは人が多くて、建前上は秘密の守護騎士であるカレンはかえってランカークには近づけない。
 カレンがアルバイトのない日は修練場で落ち合い、色っぽくはない話だが、この二人らしく、訓練に勤しむ。アルバイトのある日は、終わる時間にジークが迎えに行く。その後は、カレンはランカークの屋敷で少し普通に働いて……何もなければ、やっと夜に義務から解放される。本当はアルバイトや訓練の時間や夜間も、カレンはランカークの護衛をするべきなのだろうが、ずっとつきまとうのは鬱陶しがられて遠ざけられているらしい。
 ……何の話かと言えば、この二人、逢える時間は結構限られているということだった。
 カレンはジークと一緒にいない時間は、概ね講義か労働かランカークに振り回されているかの三択だ。その時間のカレンのことを、ジークが想像することは容易かった。
 では、ジークはと言えば。カレンは自分と一緒にいない間のジークは、きっとほとんどの時間を訓練に費やしているのではないかと思っていたが……
 二人は、ジークの父親の話をしながら中庭を歩いていた。
「お父さんとは顔が似てたの?」
「まあ、それなりにか……昔は想像つかなかったが、俺が歳くったら、あんなになるのかな。髪とか目の色は同じだった」
 金の髪に青い瞳。美しい組み合わせだが特に珍しいわけでもない色で、ジークとその父親が同じであることはごく自然な話だ。逆に、だから似ている、という話にもならない。
「じゃあ、やっぱり似てたんじゃないかしら? ……性格が似てたってこともあるかも」
 なので、カレンがそう思ったのも無理はないだろう。だが、ジークは控えめにそれを否定した。控えめながら、容姿が似ているという話よりは強く。
「……性格……は、似てないんじゃないかな」
「そうなの? なんで?」
 首を傾げるカレンに、やや憮然とした表情でジークは答える。
「親戚のおじさんから聞いた話じゃ、昔はずいぶんな遊び人だったらしいから」
「遊び人……」
 少しびっくりしたような、それでいてなんだか納得しているようなカレンの表情に、ジークは更に憮然とした。
「似てないだろう」
 ジークは、自分はそんなつもりじゃないからだ。遊び人だったという父親と似ていると言われるのは心外なのだ。
「どうなのかしら……ジークのお父さんが、どんな遊び人だったのかわからないとなんとも……」
 カレンが答を保留するのが癪に障って、ジークは顔を顰め、少しつっけんどんに応えた。
「どんな遊び人だったかはしらないな。俺が物心ついた頃には、真面目だったから」
 だがそのつっけんどんな様子にカレンがかすかな戸惑い顔を見せると、もう少ししまったとジークは思い、間をあけずに続ける。
「遊び人だったって言うのは、おじさんから聞いただけの話だからな。だがそのおじさんが、俺は父さんに似てるから、きっと女を泣かせると……」
 そこまで言って「あ」と、ジークは言葉を切った。
 カレンはやっぱりと言う顔をしている。
「……似てないだろう」
 やはり憮然と、ジークは繰り返した。
「どうなのかしら」
 少し笑って、カレンは答えた。
 笑っているので、本気ではないのだ。
 ジークは目立つので女の子に人気はあっても、遊び人ではない。ジークのことが気になる女の子はそれなりにいるので、遊び人になろうと思えばすぐにでもなれそうだが、ここまでそうではなかった。
 それはカレンも知っている。知っているから、不思議にも思っているのだった。カレンが比較して考える基準はランカークなので、色々な女の子が思いのままになりそうな状況でそうしないのは不思議なのだ。
 比較対象者が間違っている、ということは言うまでもない。
 ともあれ、カレンは本気でジークが遊び人だと思っていたわけではなかったのだ。少なくともこのときまでは。
「ちょっと、ジーク」
 栗色の髪の女生徒が、中庭をそぞろ歩いていた二人の前に立ちはだかった。
「……別れたんじゃなかったの?」
 二人とも、唖然としてその女生徒の顔を見た。
 女生徒の顔は冗談を言っているようには到底見えなかった。
「別れたって言ったじゃない……!」
 カレンはジークの顔を見上げて、自分の顔を指差して見せた。言葉にはしないが、自分と別れたのかとジークに訊いているのだ。
 ジークにしてみれば、とんでもない話である。カレンから別れたいと言われたって、素直には頷けない。
 慌てて首を振って見せているところで、女生徒のイライラは頂点を迎えたようだった。
「何してるのよ! 嘘つきっ、やっぱり遊びだったのね」
 そう決め付けて、キーっと喚いて、女生徒は行ってしまったが……
「ジーク……」
 さて残された二人には、そこで終わりというわけにはいかなかった。話の折も折である。遊びだったのね、という一言が不穏だ。
「カレン、今のはなにかの勘違いだと思う」
「……他の子が良いなら、それはそれでも……」
 微妙な顔でカレンはそう言った。そう言うことはわかっていたから、ジークは不本意でも弁明を繰り返さなくてはならなかった。
「違う、本当に……」
 しかし、今日という日はジークにまだまだ試練をもたらすつもりのようだった。
「ジークさん」
 後ろから、声をかける女生徒がいた。先ほどの物言いのはっきりしたきつい印象の女生徒とは違う、金の髪のおとなしめの女生徒だ。
「あの……昨夜は」
 そこでぽっと頬を赤らめる。
 状況的には、ジークと一緒に歩いていたのがもし男友達だったなら、言い逃れは許さないとジークを囃すか殴るかするところだろうか。だが今一緒にいるのはカレンで、言い逃れが許されないとなると大変なことになる。
「誰かと勘違いしているような気がするんだが」
 二人目となれば呆然としているだけではなく、そう応じる余裕がジークにもでてきた。いや、余裕はなくても無理矢理にでも作らねばならない。流されるままでは、カレンは彼女たちの言葉を信じるだろう。そうなったら、ジークのアリバイを証言してくれる者を探すのは困難である。
「ジークさん」
 女生徒は悲しげに俯いた。
「わかりました……でも……私、待ってますから……」
 何を、と問う前に女生徒は踵を返して行ってしまった。
「……何を待ってるの?」
 そうカレンに聞かれたが、ジークには答えられなかった。

 それから昼休みが終わるまでに、あと一人、同じように女生徒が二人の前に現れた。カレンと別れてからは、放課後までに一人。
 ジークには、誰も彼も記憶にない娘たちばかりだ。会ったこともない女生徒から次々と、いかにも自分が口説いたような、場合によっては極めて危険な一線を踏み越えたようなことを言われて、ジークも夕方を迎える頃には憔悴していた。
 女生徒たち全員が口裏を合わせてジークを陥れようとしているのか、誰かがジークのふりをしてそんなことをしているのか。あるいはジークが本当に彼女たちを口説いて食い散らかして、それを忘れているのか。そのどれであろうとも、ぞっとするような話だ。
 そして仮に何が真実であろうとも、明日には噂も広まっているだろう。そう思うとあまり物に動じないジークもげんなりしたが、少なくとも噂が広まったら新しい被害者は出るまいということだけは救いに思われた。
 だが、それまでにどれだけ被害が出るか。そしてカレンはジークの無実を信じてくれるのか。
 ジークの憔悴は、まだ少し続くようだった。

●二人のジーク
 翌日。
 ジークが仮に他の女の子を口説いていたとしても、カレンには不思議はなかった。不思議がないことと、嬉しいかどうかは別問題として、だが。
 如何に基準とする者が間違っているといわれても、カレンにとっての統一基準はランカークであるので。ランカークはどんなに本気で好いた相手がいようとも、口説いてなびく娘がいるなら口説くだろう。己の欲望に正直で信念とか根性とか人の良さとは無縁な基準と比較したら、『そのぐらい』は意外なことではないのだ。
 だが異なる基準を持つらしいジークは、女の子を騙すようなことはしていないと強く主張していた。今朝も、登校の際にジークはなんだか憔悴していて、昨日からの出来事を気にしているようだった。
 それを信じるならば、この話はどういうことなのかと考えてみる。
 そして考えながら、一つ講義が終わった後、教室を出て移動しているときのことだった。
 次の講義は休講だったので、時間が空くところだった。普段ならランカークに用を聞き、用がなければ近くで様子を見ながら時間を潰す。だが今日は色々考え込んでいて、どうしようかと思いながら俯きがちにぼんやり歩いていた。
「そうだとも、ハニィ。キミだけだよ」
 聞きなれた声だと、一瞬思った。だが内容があまりに聞きなれなくて、顔を上げたときにはカレンはぎょっとした表情を見せていた。
 その声はジークのものだったのだ。
 目に映った姿も、ジークの姿だった。長い金の髪に、確かに凛々しいジークの顔。ただ、服は制服ではない。きちんとした仕立ての服ではあったが。その上に、黄色いマフラーを巻いている。朝は確かに制服を着ていたので、着替えたのか……そして手は、緑がかった髪の女生徒の腰に添えられていた。
 その造形と色合いはジークのものだが、言葉と仕草は見たことのない者のようだった。
 廊下で呼び止められて立ち話というところだったのだろうか。内容は推して知るとして。二人がそう長いこと、そこで話していたわけではなさそうだということは、その後すぐにわかった。
「……あ」
 女生徒はカレンに気が付くと、気まずそうな表情を見せた。
 カレンもその女生徒は見覚えがあるような気がしたので、どこかで一緒の授業でも取っていただろうかと思う。あるいは別の場所でかもしれなかったが……ともあれ、彼女はカレンのことを知っているようだった。少なくともカレンとジークが付き合っていることを知っているようではあった。なのでその女生徒は、この状況をカレンに見られたのはまずいと考えたのだろう。
「あ、あの……私、用事が」
 するりと腰に回された手から逃れて、女生徒はそそくさと去っていった。
「あ、ハニィ」
 彼女はハニィという名前だったかしら、とぼんやり思いながら、彼女に未練を残していそうな男をカレンは呼んでみることにした。
「ジーク」
 すると即座に、そして自然に振り返った。
 ジークであることは、間違いないのかもしれない。
「……なんだ、そんなところにいたのか」
 カレンを見て、ジークは艶やかに微笑んだ。女性を惹きつける魅力をこれでもかと振り撒くような微笑みだ。
 だが、カレンはこんな風に微笑むジークを見たのは初めてのことだった。
「なにをぼんやり見蕩れてるんだい? 愛しい人……僕の顔に何かついてるかな」
 こんなことを言うジークも初めてのことだった。
「ジーク、講義は?」
「ああ、急に休講になったんだ。キミは?」
「私も休講なんだけど」
「なんだ! ちょうどよかった。じゃあ、ちょっと付き合ってくれないか?」
「いいけど……どこへ?」
「どこでもいいけど、二人きりになれるところへ……」
 話している間に、いつの間にかジークはカレンにぴったりとくっついていた。腰に手を回し、カレンを抱き寄せる。
「誰も来ない場所がいいな」
「他の人に聞かれちゃいけない話……?」
「もちろん、誰にも。僕とキミの二人きりで、誰にも邪魔されずにゆっくり愛を語れる場所がいい」
 じゃあ、とカレンは廊下の先を指差した。
「倉庫にでも。誰も来ないわ」
「ふふ、いいね……」
 倉庫か、と、ジークはにやりと、どこかいやらしく笑った。

「あら? ジーク君?」
 その女生徒はジークの顔を見ると驚いたように目を瞬かせた。
 昨日からの女生徒の奇妙な反応には慣れてきていたような気がしていたが、これはそれともやや違う反応だった……元からの知り合いだからか、と思いながら、ジークはその驚きの原因を訊ねてみた。何かわかるかもしれないという期待を、ほんの少し胸に秘めて。
「何を驚いてるんだ?」
「だって今、向こうにいたじゃない」
 そう言って、女生徒は後ろを振り返る。
「なんだって?」
 ジークの偽者がいる、という線がそこで一気に濃厚になった。
「本当か、それは」
「ええ、だって、私口説かれて……っと」
 女生徒は口を覆ったが、ジークは構わないと言って続きを促す。
「そいつは多分、俺の偽者なんだ。誰かが化けてるのか、俺にそっくりな奴なのか……どっちにしろ俺を騙って、女をひっかけてるんだ」
「偽者なのね、どうりで。見た目は同じだけど、喋り方が違ってて気持ち悪いし、どうしちゃったのかと思ったけど……あ!」
 もう一度、女生徒は口を覆った。
「いけない、偽者だったら、まずいわ」
「何が……」
「カレンさん、着いてっちゃったわ」
「なんだって!」
 ジークに驚く番が回ってきたようだった。
「私、カレンさんが来たから、気まずくて離れたんだけど……離れて見てたら、そのまま二人で行っちゃったのよ」
 正しく今付き合っている彼女なのだからいいかと見送ってこちらに来たら、またこちらにもジークがいたので驚いた……ということだった。
「……いったいどこへ」
 声を搾り出すように、顔色を失いつつもジークはどうにかそれだけ訊ねた。
 ジークにそっくりのナンパ男がカレンをどこかに連れて行ったと思っただけで、頭に血が昇るような、逆に血の気が引くような、どちらだかわからない目眩がした。
「……倉庫って聞こえたけど」
 多分、その廊下の先にある、倉庫になっている部屋に……と、女生徒は告げる。
 目眩は更に酷くなった。
 ナンパ男がカレンを騙して倉庫に連れ込んだのなら、目的は一つだろう。
 ジークは物も言わずに走り出した。
「あ、ジーク君……!」
 多分、このときは頭に血が昇っていたのだと、後からジークは思った。

「暗いわね、カーテン開ける……?」
 そこは普通の部屋を倉庫代わりに使っているので、奥まで行けば窓はある。ただ、遮光のためにカーテンがかかっていた。埃臭い部屋を、そう言ってカレンが奥へ進もうとすると。
「いいよ、開けたら外から見えちゃうよ?」
 そのジークは、これから見えたらまずいことをすることを、隠す気もないようだった。
 そしてそうなることを疑いもしていない。
 すすっと、カレンの後ろに近づく。
 そのまま、カレンの背後から手を伸ばして……

 倉庫の手前まで行って、ジークは倉庫から出てくるカレンを見た。
 走ってきたせいだけではなく、心臓が早鐘を打っている
「カレン」
 そう呼ぶと、カレンは顔を上げた。
「俺の偽者……見ただろう? ……どこいった?」
「あ……ジーク」
 カレンはジークの顔を見て、頬を染める。
 それが、ジークの心臓を絞り上げた。
「カレン、何もされなかったか?」
「……ごめんなさい」
 そこで頬染めて、『ごめんなさい』と言われたなら、ジークはなんと答えたら良いのか。酷い目眩に耐えながら、言葉を捜す。
「カレン……その……」
「殴っちゃった……だって、そっと後ろから近づいてくるんだもの」
「え」
「そっくりだし……ジークの親戚か何か……なんじゃないの? 彼」
「親戚……?」
 あ、と、そこでジークも思い出した。自分にそっくりな従兄弟が帝都にいることを。名前さえよく似ていて、ジークムントという。同じように『ジーク』と呼ばれて、子どもの頃には混乱したこともあった。
 そしてカレンは、騙されていたわけではないようだった。ジークとそっくりな男についていった無防備さはあるが、思えばカレンは元からそういう娘だ。
「それじゃ、奴は」
「……中で、のびてる」
 とてつもなく言いにくそうにカレンは言ったが、ジークにとってはそこまでの心臓破りの苦しさから一気に解放してくれる一言だった。
 もっとも、カレンが偽者ジークが別人だと思っていたなら、そうなることはまあ、自然なのかもしれなかった。カレンから触れてくるのは大丈夫でも、ジークから触れられるようになるまでは避けられたり殴られたりしたものである。
 そのまま、カレンの横をすり抜けて、ジークは倉庫に入った。
 伸びている自分そっくりな男を見て、従兄弟であると確信して。その頬叩いて、起こす。
「起きろ……!」
 もっとも、言い訳を聞くために起こしているのではなかった。二発くらいは殴らなければ、気がすまないと思っていたからだ。一発は多分地に堕ちたジークの評判の分、もう一発は今死ぬほどカレンの身を心配させられた分……だった。
「う、うーん……」
 なので目を覚ましたジークムントが、またすぐ痛い夢の中へ戻っていったことは当然の成り行きだった。

●運命の娘
 再度気がついたところで、ジークはジークムントの首を引っつかんで、ジークムントが騙した女の子たちのところを回った。
 少なくとも彼女たちの誤解は解いておかないと、後でジークが困窮することになるからだ。カレンと別れて責任を取れと迫られても、聞き入れるわけにはいかない。
「僕は運命の人を探してるんだよ」
 そしてジークムントの言い訳は、こうであった。
「運命の人と巡り会うまでは、どの女の子がそうか確かめるために、色々な女の子と試してみるんだよ。ジークフリートだってそうだろう?」
「俺は違う!」
 決め付けられて、ジークは反論したが、ジークムントはそんなはずはないと言う。
「そういう血筋なんだよ、おまえもそのはずさ」
「どういう血筋だって」
「俺の親父も、おまえの親父もそうだったって……そういう血筋なんだよ」
 そう言われて、ジークは唖然とした。父が遊び人だったとジークに聞かせたのは、確かにジークムントの父親で、ジークの父の兄だったが。
「その代わり、運命の娘に一度逢ったなら、一筋ってわけさ……そういう血筋なんだ。俺も、そんな子を探してるんだよ」
 ジークは頭を抱えたが、ジークムントはこれについては言を翻さなかった。

「……なの?」
 カレンが首を傾げて聞く。
 ジークの『血筋』について、だ。
「いや、どうなんだか……言い訳のような気もするが」
 しかし、ジークムントが強硬に主張していたことは確かではあった。ジーク自身には、そんなつもりは微塵もなかったが。
「……もしそうだとしても、俺はきっと一番先に運命の娘に逢ったんだろうな」
「そうなの……?」
 そう訊いてから、カレンはぽっと頬を染めた。誰のことを言っているのか、訊いてから思い当たったようだった。
「そうなんだろう、きっと」
 笑いながら、ジークはそう答えた。

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